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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)13692号 判決

原告 杉山栄

右訴訟代理人弁護士 矢吹忠三

同 村田友栄

同 菅沼政男

被告 関口哲三

右訴訟代理人弁護士 荒川晶彦

同復代理人弁護士 大国和江

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

〈全部省略〉

理由

一、〈証拠〉をあわせれば、被告が昭和三九年一月始め訴外清田賢治から訴外安達武夫振出の本件約束手形一一通の交付を受けその各満期日前に株式会社東京相互銀行、株式会社第一銀行上野支店、ヤマジヨウ商事株式会社に割引のため裏書譲渡し(各約束手形の被裏書人の明細は別紙約束手形一覧表記載のとおり)各手形金額から割引金を控除した金員を取得したことが認められ右認定を妨げるに足りる証拠はない。

二、(一)本件約束手形がいかなる経緯により振出人たる安達武夫から発行されるに至ったかにつき考えるに、原告は昭和三八月一二月二五日清田を介して安達から、金融を得るためこれを借用した旨主張し、証人清田賢治も同趣旨を供述するのであるが、他方〈証拠〉によれば、本件約束手形と同一の約束手形およびその他の約束手形(振出人、受取人、支払場所の記載はいずれも本件約束手形と同じ)四通、合計一五通金額合計金五〇〇万円について、安達が訴外杉山ウメヲの依頼により昭和三八年一二月二五日ころ清田賢治を受取人として振出し、昭和三九年一月一五日ころまでに返還を受ける旨の約束で清田を介して、杉山ウメヲに交付したのに同人はこれを右期限までに返還せず、かつ右約束手形のうち一一通(本件約束手形と同一のもの)が第三者の手中に入り、決済せざるを得なかったところ右支払は訴外杉山の債務不履行による損害であるとして安達から右訴外人を被告として右約束手形金額中金二六〇万円の損害賠償請求訴訟が東京地方裁判所に提起され(同庁昭和四二年(ワ)第六七五一号事件)、同庁において審理の結果原告たる安達の右主張事実をすべて肯認したうえその請求の全部認容の判決があったこと、しかして右判決に対して右訴外人が東京高等裁判所を提起し、右控訴審に係属中であることが認められる。

右認定事実に本訴における原告の右主張並びに証人清田の証言と対比すれば、清田を介して安達に対し本件約束手形の発行を依頼し、これを借用した者は原告と右訴外人の両名のうちいずれかであるけれども、そのいずれであるかは、確定するに足りる証拠がなく、この点に関する証人清田の証言(第一、二回)は信用するに足りない。

(二)次に、本件約束手形がいかなる経緯により被告の手中に入ったかについて考えるに、被告本人は清田の依頼により本件約束手形を含む安達振出の約束手形の手形金合計金額と同額の約束手形を振出して清田に交付し、その見返りとして本件約束手形を含む右約束手形を清田から受領した旨供述するが、〈証拠〉をあわせれば、被告が安達にあて本件約束手形等の安達振出の約束手形取得の見返りとして振出したという約束手形は流通に置かれることなく被告が現在まで保管したままであることが認められるのであって、この事実に証人清田の証言(第一、二回)をあわせれば、被告は前記の日(前出一認定)に清田から本件約束手形の割引先きのあっ旋を依頼されたところその意思がないのにこれを承諾したものとし同人から本件約束手形の交付を受けたものと認めることができる。被告本人尋問の結果中右認定に反する供述は信用できず、他に右認定を妨げるに足りる証拠はない。

三、(一)以上一、二の各認定事実を綜合、判断するに訴外安達武夫は原告または訴外杉山ウメヲのうちいずれか一名の依頼によりその者に対し金額の融通を得させる目的で本件約束手形を振出、交付し、清田が右の者の委任により被告に対し右約束手形の割引先きのあっ旋を依頼したところ被告は自己の資金の調達にあてるためにこれを濫用して前記東京相互銀行、ヤマジヨウ商事、第一銀行上野支店において手形割引をし、右の者らに対し裏書譲渡したと認めるべきであって、被告の東京相互銀行ほか二社に対する裏書譲渡は不法のものといわなければならない。

しかして、被告の本件約束手形取得以前の本件約束手形の支払義務者が手形所持人の請求により約束手形金の支払をしたときは、かような結果の発生すべきことは不法に裏書譲渡した被告において当然予見し若しくは予見し得べきものであるから右支払による損害は被告に賠償義務があるというべく、かつ本件のように融通手形の発行を依頼した者は振出人との間の資金契約により約束手形の支払期日までに手形の決済資金を振出人に提供支払をすべき義務があるから被告においてかような資金契約上の支払義務者の存することを認識していたときも右と同断である。

ところで、前記説示(二の(一))のように本件約束手形の振出の依頼をした者が果して原告であるか、または訴外杉山ウメヲであるかはこれを確定するに足りる証拠がなく、従って安達との間の資金契約上の本件約束手形の支払義務者を確定するに足りないから本件約束手形がすべて決済されたものとしてこれにより当然に原告に損害が発生したとする原告の主張の理由のないことは明らかであり、それのみならず被告において本件約束手形面に顕われない資金契約にもとづく支払義務者の存することの認識があったことを認めるに足りる確たる証拠がないからこの点からしても被告の主張は理由がない。

(二)のみならず、成立に争いのない乙第三号証が被告の所持するところである事実に被告本人尋問の結果をあわせれば、本件約束手形のうち別紙約束手形一覧表記載5の約束手形の金二〇万円は被告が決済したことが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

そうして、残余の約束手形中東京相互銀行に裏書譲渡された約束手形のうち原告が支払をしたものとして原告の提出、援用にかかる甲第二号証によれば、昭和四二年七月一一日付で右相互銀行が元金六七万円、延滞利息金一三万円、手続準備費用金二万四、七七〇円を訴外野々貞市から受領した旨の記載があるが、別紙約束手形一覧表記載1ないし4の各約束手形金と右支払金額とを対比すれば、金額も相違し、右支払が右約束手形金の一部の支払であると認めるには足りず、また証人後藤栄子の証言により真正に成立したと認める甲第三号証記載の金一〇万円も右記載のみで本件約束手形のいずれかの手形金の一部支払であると認めるに足りない。証人後藤栄子の証言中右趣旨にそう供述はにわかに援用できない。

しかして本件約束手形のうちヤマジヨウ商事株式会社に裏書譲渡された別紙約束手形一覧表記載6ないし10の約束手形の決済関係については本件全証拠を通じてみても原告主張事実を認めるに足りる証拠はなく、同約束手形と前記5の約束手形を除いたその余の約束手形について被告本人尋問の結果によれば、振出人たる安達が一部の金員の支払をしたことが認められるが、これもその数額を確定するに足りる証拠がない。従って、原告主張の損害の数額の点もこれを認めるに足りないのである。〈以下省略〉

(裁判官 間中彦次)

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